
目次
下の前歯が内側から生えてきたときに、まず知っておきたいこと
小学1年生の春から夏にかけて、「下の前歯が1本だけ奥から出てきた」という声をよく伺います。学校の歯科健診で歯並びを指摘されると、すぐに矯正を考えるべきか、生え替わりを待つべきか迷う方も多いでしょう。
この記事では、生え替わりの目安と個人差、様子を見やすい状態と早めに相談したい変化、初回相談で確かめることを整理しました。相談することと治療を始めることは、別々に考えてよい判断です。落ち着いて次の一歩を選ぶ材料にしてください。
この記事の要点まとめ
- 下の永久歯が内側から生えることは生え替わり期にみられ、時期や歯の向きには個人差があります。
- 噛み合わせのずれや強い重なり、痛み、乳歯の残りを記録し、歯科医院での相談に役立てましょう。
- 相談と治療開始は別に考えられます。成長段階や装置、費用、通院条件を確認し、ご家族で方針を検討できます。
子どもの歯並びはいつから気にする?下の前歯の生え替わり

下の前歯の生え替わりが始まる時期や順番にはお子さんごとの差があります。永久歯が内側から出てくるのは、この時期に見られる生え方のひとつです。
下の永久歯が乳歯の内側から生えるのはなぜ?
下の前歯の永久歯は、乳歯の根の内側(舌のある側)で育ち、乳歯の根を少しずつ溶かしながら上がってきます。根の溶け方がゆっくりだと、乳歯が抜ける前に永久歯が内側から顔を出すことがあります。
乳歯が抜けたあと、舌に押されて少しずつ前へ移っていくケースもあります。内側から見えたという事実だけで、将来の歯並びが決まるわけではありません。
乳歯が抜けた後に観察したい歯の向きと生える場所
ご家庭では、次の3点をメモしておくと相談のときに経過を伝えやすくなります。
- 永久歯がまっすぐか、ねじれて生えているか
- 隣の歯と重なっていないか
- 抜けずに残っている乳歯がないか
月に1回ほど、同じ角度からスマートフォンで撮っておくと変化を比べられます。気になっても、指や舌で歯を押して動かそうとするのは控えてください。歯ぐきを傷めることがあります。
生え替わりを待てば、歯並びは自然に整う?
生え替わりとともに位置が変わっていく場合はあります。一方で、顎の大きさに比べて永久歯が大きいと並ぶ場所が足りず、重なりが残ることもあります。
後から生える歯にも目を向けておきたいところです。乳歯と永久歯が混ざる早い時期に上の歯列のスペースが不足したお子さんを対象に、歯列の拡大、上の乳犬歯の抜歯、介入しない場合が上の犬歯の位置に与える影響を調べた研究があります1。下の前歯だけでなく、これから生える歯の場所まで含めて歯科医院で確認できます。
ポイント
内側からの生え方は生え替わりの途中によくある形です。向き・重なり・残っている乳歯を記録しておくと、相談時の判断材料になります。
様子を見るか相談するか、歯並びと噛み合わせで見分ける

判断の目安になるのは、歯の位置そのものより「噛み合わせ」と「生活への影響」です。食事や会話に困りごとがなければ記録を続け、噛み合わせのずれや痛みがあれば早めに相談する、という分け方が考えやすいでしょう。
大きな困りごとがなければ、変化を記録して相談時に伝える
食べこぼしが増えた、発音しにくそう、歯ぐきが痛むといった様子がなく、重なりも軽いなら、生え方の変化を記録しながら見守る選択肢があります。
ただし、どのくらい待つかはお子さんによって異なります。「半年待てば大丈夫」と決めてしまわず、健診で指摘を受けたときや変化が気になったときに、記録を持って相談すると話がスムーズに進みます。
受け口・左右の噛み合わせのずれ・強い重なりは早めに相談
次のような状態は、生え替わりを待たずに一度確認してもらいたいサインです。
- 下の前歯が上の前歯より前に出ている(受け口)
- 奥歯の噛み合わせが左右でずれている(交叉咬合)
- 永久歯の生える場所が見当たらないほど歯が重なっている
- 上の前歯が大きく前に出ている
口がいつも開いている、飲み込むときに舌が前に出るといった癖も、相談時に伝えておきたい観察事項です。上の前歯が大きく出ている場合、7〜11歳ごろに早めの治療を行うと、前歯をぶつけて傷める機会が減る可能性が報告されています2。
噛み合わせが深い、痛む、乳歯が残る場合に確かめたいこと
上の前歯が下の前歯を深く覆い、下の歯がほとんど見えない状態を過蓋咬合(深い噛み合わせ)と呼びます。治療後に元へ戻りやすい傾向も指摘されています3。
下の前歯が上の歯ぐきに当たって痛むときも、相談の目安になります。永久歯が出てきても乳歯が残っている場合、その乳歯を抜くかどうかは診察とレントゲンで確認したうえで判断します。
相談する時期と小児矯正を始める時期は同じではない
相談はどの時期でもでき、治療を始めるかどうかは歯並びと成長の段階を見て決めます。年齢だけで装置を使うかどうかが決まるわけではありません。
乳歯が中心の時期は、癖や噛み合わせを相談できる
3〜5歳ごろの乳歯が中心の時期は、治療を前提とせず、受け口や口呼吸、指しゃぶりなど気になる点を相談できる段階です。
口呼吸や舌の癖、姿勢は歯並びに影響することがあります。そのため当院を含む相談先では、歯並びを乱す原因となる習慣についても確認するとよいでしょう。装置を使うかどうかは、噛み合わせと成長の様子を見たうえで考えます。
永久歯が混じる時期は、今取り組むことと待つことを分ける
下の前歯が生え始める6〜7歳ごろからの混合歯列期(乳歯と永久歯が混ざる時期)には、噛み合わせ、歯が並ぶ場所、口周りの癖を確認し、「今取り組むこと」と「待つこと」を整理します。
上の前歯が大きく出ているケースでは、早めに治療を始めた場合と思春期に治療した場合で、最終的な歯並びに大きな差はみられなかったとする検討があります2。早く始めれば後の治療が要らなくなるとは限らず、経過観察を選ぶことも十分あり得ます。
永久歯がそろう頃に改めて考える治療と抜歯の判断
12歳前後に永久歯がそろう頃には、改めて歯並びを評価します。早い時期に対応した場合でも、この段階で二期治療(永久歯がそろってからの仕上げの治療)を検討することがあります。上の犬歯の位置も、この時期に見直したい点のひとつです1。
できる限り歯を残す非抜歯矯正を重視する考え方がある一方で、歯と顎の大きさのバランスによっては抜歯を含めて検討する場合もあります。方針と実際の選択は、検査結果をもとに保護者の方と相談しながら決めていくものです。
ポイント
相談した時点で治療開始が決まるわけではありません。乳歯・混合歯列・永久歯列の段階ごとに、取り組むことと待つことを分けて考えます。
初回相談で確かめることと、通院を決める前の確認事項
初回相談は、お子さんの今の状態を知り、治療が必要かどうかを一緒に考える場です。その日のうちに治療を決める必要はなく、説明を持ち帰ってご家族で話し合うこともできます。
初回は生え方・噛み合わせ・口周りの癖をどう確認する?
保護者の方が気にしていることやご希望を伺い、歯の並び、噛み合わせ、口元や舌の使い方を確認します。治療を検討する段階では、歯科用CTやセファロ(頭部の規格レントゲン)、3D口腔内スキャナーによる精密検査を提案することがあり、経過観察でよいと判断すれば検査をせずに見守ります。
当院を含め、検査方法や説明の仕方は医療機関によって異なります。スキャナーで取り込んだ歯の画像を画面で確認できる場合もあります。粘土状の型取り材を使わずに済むため、型取りが苦手なお子さんの負担にも配慮できます。
マウスピースを希望するときも、装置と通院の負担を確認
目立ちにくいマウスピース型の装置を希望される方もいます。取り外しできる装置は、決められた装着時間を守れるかどうかで進み方が変わります。歯並びやむし歯のなりやすさによっては、床矯正やワイヤーが候補になることもあります。
- 1日の装着時間と、学校で外す場面の扱い
- 通院の間隔と治療期間の目安
- 痛みや違和感が出たときの連絡方法
装置がきつい、合わないと感じたら、ご家庭で削ったり曲げたりせず医院へ伝えてください。
費用と通院について確かめたいこと
小児矯正は、一部の先天的な疾患などを除いて公的医療保険が適用されない自由診療です。混合歯列期に行う一期治療の費用や治療期間、通院の間隔・回数は、お子さんの状態や治療内容によって異なるため、医師にご相談ください。精密検査料や毎回の調整料が別にかかる医療機関もあり、初回相談・精密検査・装置・調整・治療後の保定(後戻りを防ぐ管理)がどこまで含まれるかも異なります。永久歯がそろってから二期治療に進む場合は、別途費用がかかることがあります。費用は医療機関によって異なり、当院の費用は診察のうえでご案内します。内訳と追加費用の有無も、診察のうえで医院へ直接確認してください。
小児矯正には、次のようなリスクや副作用があります。治療を始める前に、説明を受けておきましょう。
- 装置を着けた直後や調整の後に、痛み・締めつけ感・違和感が出ることがあります
- 装置の周りに汚れがたまりやすく、むし歯や歯ぐきの炎症(歯肉炎)が起こりやすくなります
- 装置が頬や舌に当たり、口内炎ができることがあります
- 装置に慣れるまで、話しにくさや食べにくさを感じることがあります
- まれに、歯の根が短くなる(歯根吸収)、歯ぐきが下がる、顎の関節に痛みや音が出るといったことがあります
- 成長の仕方や装置の使用状況によっては、治療期間が延びたり、治療計画の見直しが必要になったりすることがあります
- 治療後に保定装置を指示どおり使わないと、歯並びが元に戻ろうとする(後戻り)ことがあります
通院先は、仕事や学校の予定、下のお子さんの預け先まで含めて考えると無理が少なくなります。駐車場やキッズスペースの有無なども、通院先を選ぶ際の確認事項です。
診療内容や通院条件は、公式情報と相談時の説明で確かめましょう。まずはご家庭で撮った歯の記録と健診のお知らせを手元にそろえ、聞きたいことを書き出してから相談に備えると、限られた相談時間を有効に使えます。
よくある質問
Q1. 小児矯正は何歳から始めるのがよいですか?
A. すべてのお子さんに共通する開始年齢はありません。6歳前後に一度相談し、噛み合わせや歯の並ぶ場所、口周りの癖を確認したうえで、今取り組むか経過をみるかを判断する流れが一般的です。
Q2. 子どもの歯並びは自然に治りますか?
A. 生え替わりとともに位置が変わる場合はあります。ただ、顎の大きさと歯の大きさのバランスによっては重なりが残ることもあるため、気になる変化があれば歯科医院で確認してもらうと判断しやすくなります。
Q3. 相談に行ったら、そのまま治療を始めることになりますか?
A. 相談と治療開始は別の判断です。経過観察となることもありますし、説明を聞いたうえでご家族で検討してから決めることもできます。
Q4. 矯正治療で一番つらいのはどの時期ですか?
A. 感じ方には個人差がありますが、装置を使い始めた直後や調整した後の数日は、締めつけ感や違和感が出やすいと言われます。強い痛みが続く場合は我慢せず医院へご相談ください。
Q5. マウスピースがきつい気がするときはどうすればよいですか?
A. 装置を替えた直後は締めつけを感じることがあります。入らない、痛みが強いといった場合は無理に押し込んだり削ったりせず、医院へ状況を伝えて指示を受けてください。
参考文献
1. Willems G, Butaye C, Raes M, et al. Early prevention of maxillary canine impaction: a randomized clinical trial. Eur J Orthod. 2023. PMID: 37266982 / DOI: 10.1093/ejo/cjad014
2. Batista KB, Thiruvenkatachari B, Harrison JE, et al. Orthodontic treatment for prominent upper front teeth (Class II malocclusion) in children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev. 2018. PMID: 29534303 / DOI: 10.1002/14651858.CD003452.pub4
3. El Guennouni B, Houb-Dine A, Ben Mohimd H, et al. Orthodontic treatment of deep bite in mixed dentition and/or early permanent dentition: What about stability? – A systematic review. Int Orthod. 2025. PMID: 39742828 / DOI: 10.1016/j.ortho.2024.100956
・ロンドン大学クイーン・メアリー校歯学部留学
・岡山大学歯学部歯学科卒業
・岡山大学病院研修医
・岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 歯科矯正学分野修了 歯学博士
・岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 歯科矯正学分野 医員
・海部津島たんぽぽ矯正歯科クリニック
・名駅MA矯正歯科
(マウスピース専門の矯正歯科医院)
その他、名古屋、大阪を中心に複数の歯科医院で矯正
歯科専門医として勤務
歯科医師、歯学博士
日本矯正歯科学会認定医
インビザライン認定医
予防歯科認定医(ジャパンオーラルヘルス学会)
<所属学会>
日本矯正歯科学会
日本顎変形症学会
中・四国矯正歯科学会
ジャパンオーラルヘルス学会
<受賞等>
2015年 先端歯学スクール
岡山大学歯学部大学院生の代表として参加
2016年 岡山歯学会奨励論文賞受賞
2017年 日本矯正歯科学会の認定医試験、最高評価A
2020年 「歯科矯正用アンカースクリューを用いた矯正歯科治療アトラス」に治療症例が抜粋される
<論文、学会発表>
“Topical Application of Lithium Chloride on the Pulp Induces Dentin Regeneration.”
K Ishimoto, S Hayano, T Yanagita, H Kurosaka,
N Kawanabe, S Itoh, M Ono, T Kuboki, H Kamioka, T Yamashiro
歯の組織の発生メカニズムを応用して再生医療の臨床試験につながる研究結果を英語論文にて報告しました。
その他、臨床論文、学会発表多数
あわせて読みたい関連記事




