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同じ食卓なのに、噛み方がこんなに違う
上の子はしっかり噛んで食べるのに、下の子はほとんど噛まずに飲み込んでしまう。ふとした瞬間にその差に気づくと、顎の育ち方や将来の歯並びに関係するのだろうかと気になってきます。噛むという動作は、顎の骨や筋肉、神経の連携が育っていく過程そのもの。噛む刺激がどう顎の発育につながるのか、そして家庭の食事でどんな工夫ができるのかを、きょうだいそれぞれの段階に分けて整理していきます。
よく噛むことが顎の骨の発育を促すしくみ
噛む刺激と顎の成長をつなぐ考え方
顎の骨は、生まれたときの大きさのまま育つわけではありません。周囲の筋肉が働き、歯に力が伝わることで、骨は刺激を受けながら形を整えていきます。食事のたびに咬筋や側頭筋が収縮し、その張力が骨に伝わると考えられており、こうした刺激の積み重ねが、顎の幅や高さの成長に関わる一因になり得ると考えられています。
咀嚼は単純な上下運動ではなく、脳と口の周りの筋肉、歯根の感覚センサーが連携して成り立つ動きです。子どもの咀嚼機能に関する系統的レビューでは、噛む力や下顎の動かし方、噛み砕く効率は年齢とともに段階的に発達していくことが示されています5。つまり、噛む力は生まれつき決まっているのではなく、日々の食事の中で育っていく機能だと考えられます。
発達が進んでいく順序
乳歯が生えそろう3歳前後までは、前歯でかじり取り、奥歯ですりつぶすという一連の流れを覚えていく時期にあたります。その後、6歳頃に第一大臼歯が生えると噛み合わせの支点ができ、噛む力の出し方が安定してきます。学童期に入ると、食べ物の硬さに応じて顎の動かし方を無意識に調整できるようになっていく、という段階を踏みます5。
見落としやすいポイント
硬いものをたくさん食べさせれば顎が大きくなる、という単純な話ではありません。過度に硬い食材は顎の関節に負担をかけたり、噛むこと自体を嫌がるきっかけになったりします。厚生労働省も、ゆっくりよく噛んで食べることを日常の食習慣として整える視点から解説しています1。量や硬さより、噛む回数と食べるリズムを整えるほうが現実的です。
噛む回数の減少が歯並びに与える影響
咀嚼回数と歯列の土台の関係
柔らかい食事が中心になると、一口あたりの咀嚼回数は自然と減ります。噛む回数が減れば、顎まわりの筋肉が働く機会も、骨に伝わる刺激も少なくなる。この積み重ねが、歯が並ぶためのスペース確保に影響する可能性が指摘されています。歯が並びきらず重なって生える叢生は、顎の幅と歯の大きさのバランスが崩れたときに起こりやすい状態です2。
ただし、歯並びの乱れは咀嚼だけで決まるものではありません。遺伝的な骨格の特徴、口呼吸、舌の癖、指しゃぶりなど複数の要因が重なります。噛む習慣は歯並びを決める唯一の要因ではなく、土台づくりに関わる要素のひとつという捉え方が実際に近いところです。
一口の量と噛み方の関係
8〜10歳の子どもを対象にした研究では、同じ食品でも一口のサイズが大きくなると、飲み込むまでの咀嚼回数や口の中での処理のしかたが変わることが報告されています3。別の研究でも、口に入れる量の違いが、飲み込む直前の食塊の細かさや咀嚼サイクル数に影響することが示されました4。
家庭で応用するなら、次の順序が扱いやすいはずです。
1. 一口の量を、子どもの口の大きさに合わせて少し小さめにする
2. 前歯でかじり取る場面を意識してつくる
3. 飲み込む前に声をかけ、口の中が空になってから次の一口へ進む
進めるうえで気をつけたいこと
「もっと噛みなさい」と回数を数えさせると、食事が義務になってしまうことがあります。数える対象を回数から食材に切り替え、「今日のごぼうは何回で飲み込めそう?」といった遊びの形にすると続けやすくなります。食事時間が極端に長引く、いつも片側だけで噛んでいる、といった様子が続く場合は、家庭の工夫だけで抱え込まず一度専門的な確認を検討してください。
年齢や噛み方の癖に応じたきょうだいそれぞれへの関わり方
発達段階が違えば、かける言葉も変わる
きょうだいで噛み方に差があること自体は、珍しいことではありません。咀嚼機能は年齢とともに段階的に発達するため、未就学児と小学校低学年では、そもそも到達している段階が違います5。上の子と同じ声かけを下の子にそのまま当てはめても、うまくいかないのは自然なことです。
下のお子さんが丸呑みしがちな場合、背景としては「奥歯ですりつぶす動きがまだ身についていない」「一口の量が多すぎる」「飲み物で流し込む癖がついている」あたりが考えられます。日本小児歯科学会も、成長段階に応じた口腔機能の育ちを見ていく視点を示しています2。
段階別の関わり方
- 未就学児(3〜5歳頃):前歯でかじり取る経験を増やす。スティック状の野菜やくし形に切ったりんごなど、口に運ぶ前に「かじる」工程が必要な形にする
- 小学校低学年:奥歯での噛み分けを意識させる。左右交互に使えているか、食事中にさりげなく観察する
- 共通:食事中の飲み物は、流し込み用ではなく口を潤す程度の量にとどめる
上の子には「よく噛めているね」と伝え、下の子には「お姉ちゃんみたいに」ではなく、その子自身の変化を拾って声をかける。比べる言い方を避けるほうが、結果的に長続きします。
無理をさせない線引き
噛むことを促すつもりが、食事そのものへの苦手意識につながっては本末転倒です。丸呑みが続いていても、体重が順調に増え、食事を楽しめている場合は、経過を見ながら整えていけることもありますが、状況には個人差があるため、気になる点があれば早めに相談することも選択肢の一つです。むせ込みが頻繁、特定の食感を強く避ける、話し方にも気になる点がある——こうした様子が重なるときは、早めに相談の機会をつくると判断がしやすくなります。
家庭で今日からできる噛む習慣づくりの工夫(食材・調理・食事姿勢)
「硬さ」より「噛みごたえの質」で選ぶ
噛む回数を増やしたいとき、真っ先に思い浮かぶのは硬い食材かもしれません。ただ実際には、硬さより「繊維の方向」「水分量」「口の中でまとまりにくさ」のほうが咀嚼回数を左右します。ごぼうやれんこんのような繊維質、きのこ類の弾力、切り干し大根の乾いた食感——質の違うものを組み合わせるほうが、顎の動かし方に変化が生まれます1。
調理と姿勢で変えられること
忙しい平日に手間を増やす必要はありません。切り方と加熱時間を少し変えるだけでも、噛む回数は変わります。
1. 切り方:細かく刻む代わりに、大きめの乱切りや輪切りにする。繊維を断つ方向ではなく、あえて繊維に沿って切る
2. 加熱:煮込み時間を数分短くして歯ごたえを残す。電子レンジ加熱は仕上がりが柔らかくなりやすいので、最後に軽く炒める工程を挟む
3. 献立:一食の中に、柔らかいものと噛みごたえのあるものを一品ずつ入れる
姿勢も見落とせません。足がぶらついた状態では、姿勢が不安定になり、噛む動作にも影響が出ることがあると考えられています。椅子に座ったとき、足の裏が床や足置きにしっかりつき、テーブルの高さがひじの位置に合っているかを確認してみてください。台を一つ足すだけで噛み方が変わることがあります。
続けるためのコツ
毎食完璧にやろうとすると息切れします。夕食だけ、あるいは週末だけ噛みごたえのある一品を加える、というくらいでも刺激の総量は変わります。日本小児歯科学会も、食習慣は日々の積み重ねで形づくられるものとして、家庭でのかかわりの継続を重視しています2。テレビを消す、家族で同じものを食べる、といった環境面の調整も、噛む時間を確保するうえで効いてきます。
顎の発育や噛み方の気になる点を相談したいとき
家庭のケアと専門的な確認の役割分担
食事の工夫で噛む習慣を育てることはできますが、顎の骨がどのくらいのペースで成長しているか、歯が並ぶスペースが足りているかを目で見て判断するのは難しいところです。日本小児歯科学会は、成長期の口腔機能や歯列の変化を定期的に確認していく考え方を示しています2。家庭での食育と、専門的な記録・確認は役割が違うと考えるとわかりやすいかもしれません。
相談の進め方と確認できること
当院では、歯並びに関する無料相談を約60分お取りしており、お困りごとをうかがったうえで現状をご説明しています。精密検査に進む場合は、顎の骨の状態を確認できる歯科用CTや、矯正の診断に用いるセファロレントゲンで記録を取り、3D口腔内スキャナーで歯型をスキャンします。粘土のような材料を使う型取りが不要なため、小さなお子さんでも負担を抑えて記録が残せます。
受診の目安としては、第一大臼歯が生え始める6歳前後が一つの区切りとされることがあります。ただし成長のペースには個人差があるため、前歯の生え変わりと重なるこの時期は、あくまで参考として顎の成長の様子を確認しやすいタイミングと考えられます。もちろん、丸呑みや口が開いたままになりやすいといった気になる様子があれば、それより前でも構いません。
通院を続けるうえで考えておきたいこと
三重県内でお子さんの通院先を考えるとき、送り迎えの負担は現実的な検討材料になります。当院は日曜日も診療しており、平日に時間を取りにくいご家庭にも通っていただけます。キッズスペースを設けているため、きょうだいでのご来院にも対応しやすい環境です。
なお、実際に矯正治療へ進むかどうかは別の判断になります。相談の段階で費用や期間の説明を受け、家庭で取り組めることと専門的な対応が要る部分を切り分けてから決めていただければ十分です。当院には口育士・離乳食コーディネーターの資格を持つ女性歯科医師も在籍しており、噛み方や口の癖についてのご相談もお受けしています。
参考文献
1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/
2. 日本小児歯科学会 https://www.jspd.gr.jp/
3. Gómez-Zúñiga RS, Wintergerst A. Effect of food portion on masticatory parameters in 8- to 10-year-old children. Journal of Texture Studies. 2023. PMID: 36146919 / DOI: 10.1111/jtxs.12724
4. Wintergerst A, Gómez-Zúñiga RS. The effect of bolus size on masticatory parameters at swallowing threshold in children using a hard, solid, artificial test food. Journal of Texture Studies. 2022. PMID: 35243636 / DOI: 10.1111/jtxs.12671
5. Almotairy N, Kumar A, Trulsson M et al. Development of the jaw sensorimotor control and chewing – a systematic review. Physiology & Behavior. 2018. PMID: 29960013 / DOI: 10.1016/j.physbeh.2018.06.037
・ロンドン大学クイーン・メアリー校歯学部留学
・岡山大学歯学部歯学科卒業
・岡山大学病院研修医
・岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 歯科矯正学分野修了 歯学博士
・岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 歯科矯正学分野 医員
・海部津島たんぽぽ矯正歯科クリニック
・名駅MA矯正歯科
(マウスピース専門の矯正歯科医院)
その他、名古屋、大阪を中心に複数の歯科医院で矯正
歯科専門医として勤務
歯科医師、歯学博士
日本矯正歯科学会認定医
インビザライン認定医
予防歯科認定医(ジャパンオーラルヘルス学会)
<所属学会>
日本矯正歯科学会
日本顎変形症学会
中・四国矯正歯科学会
ジャパンオーラルヘルス学会
<受賞等>
2015年 先端歯学スクール
岡山大学歯学部大学院生の代表として参加
2016年 岡山歯学会奨励論文賞受賞
2017年 日本矯正歯科学会の認定医試験、最高評価A
2020年 「歯科矯正用アンカースクリューを用いた矯正歯科治療アトラス」に治療症例が抜粋される
<論文、学会発表>
“Topical Application of Lithium Chloride on the Pulp Induces Dentin Regeneration.”
K Ishimoto, S Hayano, T Yanagita, H Kurosaka,
N Kawanabe, S Itoh, M Ono, T Kuboki, H Kamioka, T Yamashiro
歯の組織の発生メカニズムを応用して再生医療の臨床試験につながる研究結果を英語論文にて報告しました。
その他、臨床論文、学会発表多数
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